第二幕:13



 心情的にはすぐにでも麗燈さんの元に向かいたいところだった。受け取った霊力をなんとかしてお返ししたかったし、話し合いたいこともあった。昨日は結局根本的な事柄については何も話し合わなかったのだ。だからこそ自分が犯した失態に今になって気付いたのだけれど。
 まあいいか、なんて軽い気持ちで妥協してはならなかった。
 今更だ。自分はちっぽけで無力で誰にも注目されない凡庸な存在だなんて思い込んでいて、いや、実際十六日前まではそうだったのだ、私はただの高校生で――でも、今はどうなのか。どうして私は忘れていたんだろう、今ここにいるということ自体が異常なのに。私は自分の存在を軽んじるあまりに気付けなかった。〈御殿〉に来た日、〈恭爺〉さんに言われたのに。「今姫様が成し遂げようとしていることには、光さんの〈器〉としての力がどうしても必要なんです」と。つまり、私は異世界にトリップした時点でもう「普通」などではなかった。もっと自分の一挙手一投足がこの世界に及ぼす影響を考えるべきだった。決して何の目的も無しに呼ばれたわけではないのだから。
 どうしよう――。
 もう何度目になるやら知れない「どうしよう」を胸中で呟いた。口には出さない。これ以上繰り返すと本格的に真澄さんが心配するから。
 心情的にはすぐにでも麗燈さんの元に向かいたいところ、とはいえそう簡単に会えるはずがない。何より彼は忙しい。だって、〈紅蓮〉の最高権力者だ。大体会いたいからといってこちらからどうコンタクトを取れば良いのかもわからない。
 じゃあ、次に会える日まで待つ? ……ううん、そんなの駄目。
 そうやって悠長に構えているから今の事態に陥ったんだ。何かあってからでは遅い。……何かあってからでは遅い、そういえば昨日瑠璃さんが全く同様のことを口にしていたな。
 瑠璃さん。
 ああほら、呆けている場合ではない。もし今〈御殿〉周辺にて〈魔羅〉の奇襲があれば、瑠璃さんだってきっと呼ばれる。彼の籍はそのまま守護軍にあるのだから。
『私の妹は……』
 先程真澄さんが言いかけた事実や瑠璃さんの過去などから否が応でも導き出される結論がある。今日、やっと気付いたこと。〈紅蓮〉では、死が身近なのだ。病気や事故、寿命による自然死などではなく、〈魔羅〉という化け物による作為的な死が当たり前のように蔓延っている。諦めでも慣れでもなく、ただここにはひとつの摂理として在るのだ。信じがたいことに。
 駄目だ駄目だ、後先なんて考えている場合ではない。自分が元いた世界に帰ることとか、結界を破壊することとか、そういうのは全部後回しにして、今は目の前に差し迫った危機を回避したい。いや、しなければならない。私の力でどうこうできるものでないのなら、他の誰かに力添えを――そう、麗燈さんとか。いいや、彼にだって責任はあるはずだ。でもすぐに会えるとは思えない。
 一体誰に頼めば。
 妙案が閃いたというわけではないけれど、その時ある考えが浮かんだ。私は顔を覆っていた手を下ろし、傍らで心配そうにこちらの様子を見守っている真澄さんに目を向ける。
「今から――〈恭爺〉さんに、会えませんか」
 緊張が走った自分の声は聞き慣れない低音で、自分でも驚いてしまう。真澄さんは目を見開き、まじまじと私を見つめる。
「前から思っていたんです。お見舞いすること、出来ませんか?」
 間髪置かずに付け加える。本当は違う、そんな目的ではない。でもただ「会いたい」では到底叶いそうになかったから。それこそ単なる我が儘で終わってしまう。
 真澄さんは私と視線を合わせたまましばらく動かなかった。
 ああさすがに無理のあるお願いだったかなと半ば諦めかけたとき、真澄さんが自らの口唇の端に親指を当て、思案するような面持ちになった。検討してくれているのだろうか。
「……〈恭爺〉様は、今、ご療養中で」
「はい」
「虚脱症状が表れていると、先程私は申し上げたはずですが」
 真澄さんの感情があまり窺えない声音と表情に動揺しながらも、私は姿勢を正して視線を返す。続く言葉を待った。
「それを踏まえた上でおっしゃっているのですか」
「はい。そうです」
「何故? 〈恭爺〉様は今、正常な状態ではないのですよ。あの方にとっても、光様にとっても、あまり良い判断だとは思えません」
 それはそうだろう、と思った。でも引き下がらない。ひとつぐらい何がなんでも絶対に曲がらぬ信念があっても良いのではないか。いや、持つべきなのだ、私のような弱者は。
「病気のときって、誰でも心細いものではないでしょうか。〈恭爺〉さんは大人だから、きっとそんなの億尾にも出さないのだろうけれど、子供だろうが大人だろうが関係なく通ずるものってきっとあります。少なくとも私は不安になるし……。押し付けがましいかもしれませんが、やはり心配なので、お顔だけでも拝見できたらと思います」
 よくすらすら言えたものだと自分で呆れてしまった。最後の「心配」のみが真実なのだ。
 私の言い訳がましい台詞を聞いた真澄さんは一瞬、顔を顰めた気がする。嫌悪の浮かんだ表情だ。何に対しての嫌悪なのかわからず、私は当惑した。でもそれは本当に刹那の変化で、数秒後には彼のそんな表情のことなど忘れてしまう。
「――次から次へと、ご多感なことで」
「え?」
 よく聞こえなかった。
「いいえ、何も。……貴方がそこまでおっしゃるなら、仰せのままに致しましょう」
 真澄さんが普段通りの微笑を浮かべてそう言ってくれたので、私はほっと胸を撫で下ろした。よく聞こえなかった言葉については、もはや頭の片隅にも無い。
「ありがとうございます」
「いえ」
 その場に立ち上がった彼に続いて私も椅子から腰を上げると、ふと手を取られた。驚いて彼を見上げたけれど、彼の視線は私の手の甲に注がれている。やや伏せた瞳。見ようによっては何かを憂えているようにも見える。そんな表情と手を取られた状態のままで、何故だか私は不吉なことを囁かれた。
「くれぐれも、お気をつけ下さい」


 〈恭爺〉さんにアポ無しで面会してもらえる運びとなったのは、真澄さんがそれだけ彼に、そして周囲の人間にも信頼されているからだと思う。瑠璃さんに頼んでいたら駄目だったかも、なんて本人が聞いたら速攻で額陥没攻撃をしかけてくるであろう失礼なことを頭の片隅で考えた。黒梅だったら……、うん、多分やんわりと却下するかな。私のお願い事、それ自体を。
 〈恭爺〉さんに会って何を話す気なのか、正直自分でもよくわかっていなかったりする。というか、早い話が考えていない。もしかしてこれって立派な現実逃避だったりするんだろうか……とこの期に及んで他人事のように考えている辺り、私にも行き当たりばったりな性質があるということだろうか。
 〈恭爺〉さんは普段仕事で使っている執務室ではなく自室で休んでいるとのことで、私は現在見慣れない戸の前に立っていた。戸の表面にはやはり紋様円が描かれていて、例によってそれに許可の下された者が触れれば自動ドアのように開くという仕組みだ。主殿の構造って基本的に中央の奥の方が政に関わる主要人物達の居場所となっている。そして、私の部屋なんかも含まれている所謂居住に特化した区域はカタカナのロの字を描くように比較的建物の外側に近い空間に設けられているのだ。意外なことに〈恭爺〉さんの自室もその空間内にあった。お姫様の次ぐらいに偉い人なんだから、もっと特別な住処を与えられていても良さそうなものなのに、貴族の人達とお隣さん状態なのだ。……いや、彼も貴族なのだっけ? あまり話に聞かないが。
 もういつ入っても良いという状態ではあったけれど、何故か真澄さんがくるりとこちらに向き直ったので、私は内心首を傾げた。すると、彼が両手を伸ばしてくる。手早く髪を整えられ、帯の縛り目をぎりっときつく直される。口を開く間もなかった。呆然としていると、真澄さんは最終確認のつもりなのか私の頭の天辺から爪先に至るまで視線を走らせ、小さく頷く。何なのだ、もう……まるで過保護な母親じゃないか。ってこれ、体調不良で休んでいた頃にもよく考えた気がする。
「〈恭爺〉様、ただ今参上しました」
 私が言葉を失っているうちに真澄さんが口上を述べ、紋様円に手を置いた。当たり前だけれど、戸はすっと開いた。音も無く。因みにこの部屋の紋様円は中心に菖蒲みたいな花が描かれている。
 躊躇なく中に入っていく真澄さんの背中に私も遅れないようついて行く。部屋はこれまた意外なことに私の部屋と大して変わらない広さ、しかも質素で彩りが抑え込まれている感じだ。お偉いさんの部屋とは思えない。あ、天井はやや高めかな。
「失礼します……」
 仕事部屋ではなく私室なのだし、「お邪魔します」の方が合っているような気もするが、それだと友人の部屋にやって来たのかと錯覚してしまいそうだ。私が。
 入った途端、まず戸の両脇に真っ黒衣装の人がそれぞれ一人ずつ控えていたのでぎょっとした。え、〈影〉の人? 〈影〉の人って〈恭爺〉さんの護衛も務めているのか?
 そんな疑問を抱きつつも進んでいくと、窓際の寝台に上半身を起こして座っている〈恭爺〉さんの姿が見えてきた。今日は派手な橙色の着物ではなく甚平みたいな軽装を纏っている。部屋着というか寝間着というか。それと、気付いたこと。私の部屋のガラス戸は縁側に続いているけれど、この部屋には窓があるだけだった。縁側は無いということだろうか? 〈御殿〉に来てから縁側があるのが定番の構造と思い込んでいたため、少し驚いた。
 そうしてはっきりと表情が識別できる距離まで近付いて――私は、一体どんな表情を浮かべたのだろう。自分でもわからない。
 〈恭爺〉さん、すごくやつれていたのだ。衝撃で、心臓が一度強く収縮したあと、物凄い速さで脈打ち始める。なんで、こんなにも調子が悪そうなの……? 仕事を休むぐらいなのだからそれなりによろしくない状態であって当然なのに、私は彼の顔色の悪さを認めた瞬間、阿呆みたいにそう思ってしまった。
「外で控えておりました方がご都合がよろしいでしょうか?」
 真澄さんはすでに数日前に〈恭爺〉さんのことを診察しているためか、特に驚いた様子もなく普段通りの声音でそう尋ねていた。
「お前の好きになさい」
「では、出ております」
 〈恭爺〉さんの微妙に投げ遣りな返答に真澄さんはそう答えると、無情にもさっさと部屋を出て行ってしまった。
 出て行って、しまった。
 ええと。
 沈黙がぶわっと目の前に広がって襲い掛かってくるようだった。考え無しの私、本当に馬鹿馬鹿馬鹿。なんだか冷や汗が吹き出てきたぞ。
「……お元気そうで何よりですね、光さん」
 開口一番投げかけられた〈恭爺〉さんの皮肉げなお言葉に若干怯んだが、そこは病人とあって以前の迫力には劣るわけで。それに、部屋には私と〈恭爺〉さんの二人だけでなく下男……という表現で合っているのかわからないけれど、お茶を用意している下働きの男性の姿もあった。まあ、その彼もお茶を用意し終わると早々に出て行ってしまったんだけれど。……気付けば入り口に控えていたはずの〈影〉のお二人も消えていたし!
 〈恭爺〉さんは果たして体調の方は大丈夫なのか、自力で寝台から降りると卓の元へと移動した。いや、なんだかふらふらとした危なげな動きだったが。
 私は微妙な距離を開けて突っ立ったまま、そんな彼の様子を観察する。彼はこちらを見ない。見ようとしていない。確かに最後に会った日の彼は目元の隈がひどくて疲労が溜まっているご様子だったが、ここまで酷くはなかった気がする。なんというか、やはり精神的にだ。今の彼は目が虚ろで生気が無い。美妙な色合いをしている髪も瞳も今は心なしか輝きに欠けているように見える。あんまりな変わりようだ。
「〈恭爺〉さんは……、少し見ない間に老けましたね」
 私が思った事をずばっと率直に言っても、返答、及び文句は無し。これはどう考えてもおかしい。って、彼は事実病人なんだけれど。
「どうぞ」
「はあ」
 目を合わせることもないままお茶を勧められて少々複雑な気分になりつつも、このまま突っ立っている方がおかしかったので有り難く頂くことにした。余談だが部屋の中央部に巨大な毛皮らしき品が敷かれているので茣蓙はまったくと言っていいほど必要なかった。寧ろあったら邪魔だ。
 向かい合わせに座り、真正面から〈恭爺〉さんを見つめる。やはりこちらを見ない。見ないままお茶を飲んでいる。もくもくと湯気が立っているが熱くはないのか…………いや!
「〈恭爺〉さん、火傷しますよっ」
 私は慌てて〈恭爺〉さんの手から湯呑みを取り上げた。自分の分のお茶を飲もうと口を付けたら物凄く熱かったのだ。人間が飲んで良い温度じゃない、絶対。95℃ぐらいだと私の体内温度計という名の勘が告げている。
 〈恭爺〉さんは私に乱暴に(いやそんなつもりはなかったけれどっ)湯呑みを取り上げられても不服な表情を浮かべるどころか不思議そうに一度瞬いたきりだった。大丈夫なのだろうか。目は見えているのか?
「〈恭爺〉さん」
「何ですか」
「私、お見舞いに来ました」
「そうですか」
「ちゃんと眠っていますか?」
「ええ」
「食事は取っていますか?」
「ええ」
「……その、お風呂は」
「今朝入りました」
「あ、そうなんですか。私も今朝入ったんですよ。同じですね」
「そうですか」
 ……さあてどうしようかな。
 なんだか勢いだけでここに来てしまったわけだけれど――大丈夫、私、間違ったことをしたと後悔してもいなければ困ってもいない。どころか来て良かったと思っている。
 だって、〈恭爺〉さんさっき、真澄さんに向けては「普通」だったもの。
「――良かった、〈恭爺〉さん思ったよりもずっと元気そう」
 だから私は少しばかり、演技してみることにする。
「顔色も良いようで安心しました。これで私、気兼ねなく文句が言えます」
 到底飲める温度ではないお茶の入った湯呑みを両手で掴んで見つめている彼の眉はぴくりとも動かなかったけれど、美妙な色合いの瞳が僅かに揺れたのを私は見逃さなかった。
「まず一つ目。部屋に鏡を設置してくれるっていうあの話は一体どうなったんですかね?」
 酷いなあ私オトシゴロのかわいー女の子なのに、と付け加えると心なしか〈恭爺〉さんの眉間に皺が寄った気がする。ははは、どうだ。突っ込みを入れたくなっただろう。
「二つ目。私がちゃんと役目を果たせばその分だけ質問に答えてくれるっていう約束は、どうなったんでしょう?」
 約束は守るためにあるんですよ、それを破るなんて男のカザカミにも置けませんね、さいてーですね。くどくどと罵ると彼の湯呑みのお茶に波紋が広がった。なんだ、霊力でも流し込んでいるのか? それとも例のエスパー能力なのか。
「三つ目。私に貴族らしい生活を送ってもらうとか言っていたくせにあの後放置ですよね。私貴族が何なのかさえよく知らないのにどうしろっていうんですか? 無責任ですね」
 そこらじゅうの人に聞き回れば良いんですかぁ? と右上がりに尋ねると、彼がやや顔を横に逸らした。こういう馬鹿っぽい喋り方、嫌いそうだもんな。
「四つ目。えー、年齢を教えてくれるとか言ってよくも騙しましたね!」
 今のは冗談。次のが重要。
「五つ目。お姫様が言っていましたよ? 〈恭爺〉さんは他人を慮ることが出来ない人だって。私のことを気遣えないから、『あの計画』から除外するって――」
 そこまで言い放ったとき、〈恭爺〉さんのワインレッドの瞳がようやく私の姿を捉えた。
 いや、睨まれたというべきか。
「何を、勝手なことを」
 地を這うような低い声。やべ、態ととはいえ本気で怒られるのはご免被りたい。
 と、次の瞬間。
「っわああ!」
 うわわわわ、危ない! 〈恭爺〉さんが突然半腰になって湯呑みを投げつけてきた。なんとか直撃は免れたが、中身のお茶は見事私にダイブしてきたぞっ。胸から臍にかけてびしょぬれになってしまった。ていうか、熱いし! しかも背後でがっしゃーんという不吉な音が鳴った。私が避けたことで大幅に飛距離の伸びた湯呑みが背後の壁にぶち当たって粉砕したらしい。な、なん、なんという。
「私の、何を見て、元気と?」
「きょ、〈恭爺〉さん?」
 〈恭爺〉さんがゆらりと立ち上がった。手に、なんと小卓を携えて。
 え、え、ちょっと待ってよ何この展開。ホラー?
 湯呑みを避けたことで床に手を付いていた私は瞬時に青ざめた。そして案の定――
「ぎゃああっ!!」
 今度は小卓が華麗に宙を舞う。勿論私は死ぬ気で避ける。文字通り死ぬ気で。命中したらカクジツに死ぬと思う。
 だだだだっと慌ただしく走って入り口の方へ逃げた。床に衝突した小卓がばきっと真っ二つに割れる。えええ。ちょ、ええええええ。言葉にならない。
 白目を剥いて卒倒するのが正しい反応な気もしたけれど、〈恭爺〉さんがまだ的当てゲーム(※的=私)に夢中らしかったので、なんとか意識を保っておいた。
「療養中の身であるこの私に、文句?」
 〈恭爺〉さんは(元)小卓を掴むと、今度は二ついっぺんに投げつけてくる。ぎゃあ! と叫びながらなんとか飛び退いた。私の身体能力なんて端ものだけれど、火事場の馬鹿力といえばいいのか、何とか間一髪のところで避けることができている。ここまでは。
「勝手なことを」
 真っ二つ小卓が見るも無残に砕け散ったのを確認する間もなく今度は敷物である何かの毛皮(!)が突撃してくる。勿論この私へ向かって真っ直ぐに。体勢を低くして躱すと、背後でどんっ! とやはり不吉な効果音が響く。これはやばい、否、ちょーやべえ! と自然口調も乱れてくる。
「ちょ、ちょっとストーップ〈恭爺〉さん!」
「何がでしょう」
 何がでしょうって。
 気のせいでなければ本日最初に会った時よりも目がいっちゃってませんか?
「は、話せばわかる!」
「先に喧嘩を吹っかけてきたのは貴方でしょうに」
「喧嘩!?」
 〈恭爺〉さんの口から飛び出た物騒な単語に仰天する。ていうか、え、これって喧嘩なの? 暴行じゃなくて? と本気で耳を疑った。
「わあっ」
 今度は少し前に咄嗟に床に避難させておいたはずの私の分の湯呑みが飛んできた。避けたはいいが、背後の壁に激突した所為でまたしても乱離骨灰と化してしまう。あああ、なんて惨い! ここは〈恭爺〉さんの自室と見せかけて実は血塗れの戦場だったのか!? と私は狂いかけた。
「きょ、〈恭爺〉さぎゃあっ!」
 聞いちゃいない。返事代わりに何かが飛んでくる。なんだ茣蓙か、これなら当たっても致命傷にはならないから平気――なんて安心したのも束の間、茣蓙を全部使い切ってしまうと今度はなんと箪笥の抽斗を抜き取って投げ飛ばしてくる。ちょ、あ、当たったらマジで即死する!!
「いやあああ!」
 なにこれなんでこんなことになっているの、とたった一片だけ私に残ってくれていた理性が極近距離ででかい壷(菖蒲みたいな花が生けてあった)が大破する音を聞いた瞬間、同じく無残に、そして呆気なく砕け散った。さよなら私の理性君、十五年という短い年月の間だったけれどお世話になったね、君と過ごした日々は決して忘れない――
「ひいぃ!」
 なんて感傷に浸る余裕は勿論無くて、私はひたすら〈恭爺〉さんの部屋の中を全身全霊かけて逃げ回った。命辛々だ。
 ありえない、本当にありえない。この世界に来て今一番そう感じている。


 部屋にある「投げられる物」を一通り投げ終えた途端、〈恭爺〉さんの動きがぴたりと止まった。その頃にはもう部屋はとんでもない惨状になっていた。強盗に荒らされた後のごとく、なんてレベルではない。天変地異だ。もしくは核爆弾が投下された後だ。とにかく、この部屋はもう色んな意味で人が生活する空間として終わった。
「貴方との約束が果たせないのも……っ」
 〈恭爺〉さんの息が荒い。それ以上に私も呼吸が乱れている。もう、病人ライフ真っ只中の人が無茶するからいけない。いや、させたのは私か。しかし〈恭爺〉さん、怖かったぞ。中々にバイオレンスだったぞ。
 私はよろよろと〈恭爺〉さんの元へ向かった。あ、今わかった。これを瀕死の状態と言うんだな。
 この際冷静になって部屋に入る前に真澄さんがわざわざ髪を整えてくれた事実を思い出してはいけない気がする。動きを止めた途端、汗がどっと出てきたし。ああもう、服装頭髪以前に今朝お風呂に入った意味もまるでなくなったな。お風呂といえば〈恭爺〉さんも今朝入ったそうだからおあいこだけれど。
「こうして今、療養中なのもっ」
「〈恭爺〉さん」
 つい先程まで鬼のように暴れ回っていたくせに、今は瞳を潤ませて必死に叫んでいる。瞳が潤んでいるのは気が昂ぶっている所為であって泣きそうだとかそういうわけではない。どちらかというと潤んで、さらに血走った感じだ。目の縁も赤い。息切れしているし髪も服装もぼろぼろでひどい有様だしそもそも病人で顔色は最悪、それでもなお彼には気迫があった。
「――全部、全部、私が忙しかった、証でしょうが!」
 胸を貫通するような衝撃に、私は一瞬目を閉じて耐える。
 うん、うん。そうだよ。
 その通り、と私は心の中で頷いた。
「それをなんですか、他人事だと思って!」
「ごめんなさい」
「あなたは良いでしょうよ、気が楽で! けれど、私は! 今日までどんな思いであの方に、お仕えしてきたと!? 何年も、何十年も!」
「そうですね」
「何も知らないくせに、勝手なことを!」
「はい、今日まで知りませんでした」
「――……っ」
 〈恭爺〉さんがそこで無理矢理のように口を閉ざし、目を眇めて私を睨んだ。部屋中の物を投げられる方が断然怖かったなぁ……死の危機を真剣に感じたし。
 それより〈恭爺〉さん、こんなに暴れて叫んで倒れないかが心配。
 と、やはり相当体力を消耗したのか、〈恭爺〉さんがその場に膝を折れてしまった。慌てて駆け寄ると悔しそうに歯を食い縛りながら思い切り視線を逸らされる。……あー、なんかこの人、思ったより子供だな。なんて今度こそ本当に殺されそうだから口が裂けても言わないけれど。
 私は生意気に聞こえないように声のトーンに気をつけながら、彼に一言物申した。
「〈恭爺〉さん、お疲れ様」
「…………」
 依然思い切り横に視線を逸らされたままだが、伝わっただろうか? 今日のことについて言ったんじゃなくて、彼の今までのお仕事全てについてそう言ったんだけれど。
「人は溜め込みすぎると、病気になってしまうんですよ。心も体も。上手に息抜きしないと。ね」
「…………」
「きょーやさん?」
 ちゃんと聞いてくれているのかどうかさっぱりわからない。まあいいか、とりあえずオトナの本音が聞けたし私は今度こそ大満足なのだ。命を懸けて喧嘩を売った甲斐があったな。
 というか今気付いたんだけれど、私が今生きていられるのって〈恭爺〉さんが病人だったからだよね。彼がもし健康体だったなら私はきっと最初の一撃でクラッシュしているんだろう。
「違う……」
「え?」
 小さな小さな〈恭爺〉さんの声が聞こえた。えーと、違う? って、何がだろうか。
「光さんは、姫様に、お会いしたんですか……」
 〈恭爺〉さんが疲れ切った表情でそう尋ねつつ、自らの袖を使って私の顔に付着していた汚れを拭ってくれた。さっきの喧嘩(〈恭爺〉さん談)中に色んな物が粉砕して粉塵が巻き起こり、今も砂埃のような感じで部屋の中を浮遊している。それが汗でくっつくらしい。さっきまで私を殺しにかかっていた人が打って変わって過保護な扱いをしてくるものだから、笑わずにはいられない。私だけそうしてもらうのは不公平だと思ったので、私も同じようにしてあげようと手を伸ばしたけれど、実行する前に彼に叱られてしまった。私が着ているのはただの寝間着でも貴方の物は違うでしょうって。……まあ確かにそうなんだけれど。仕方ないので大爆発状態なワインレッドの髪を整える作業に移行したら、微妙な顔で見られてしまった。でもさ、〈恭爺〉さんだって傍から見たらかなり微妙な行為をしていると思うぞ。顔、近いし。
 よくわからないがこれって仲直りできたところなのかな。
「会いましたよ。昨日」
 私は何の躊躇もなくけろりと答えた。昨日お頭に口外禁止と言われた事実を忘れているわけでは決してない――今朝、真澄さんと話す中でふと思い立ったのだ。元々この世界の住人でない私には何が真実で何が真実でないのか見分けることは非常に難しい。ならば、初めに聞いた方を真実と仮定して考えていけば良いのだと。
 だから麗燈さんには申し訳ないけれど、私は最初に顔を合わせてお話した〈恭爺〉さんの言うことを真実と仮定する。
 うーん。それにしても〈恭爺〉さんの髪、綺麗で指通りも良いんだけれど、汗ばんでいる所為かちょっと指に引っかかる……痛くないようにと気をつけていると中々作業が進まない。ふと視線を感じて〈恭爺〉さんの顔をまじまじと見てみると、嫌そうに顔を顰めていた。あれ、痛かったのかな、と不安になったが、他人の汗に触れて気持ち悪くはないのか、みたいな事を訊かれてなあんだと安心した。そんなことを言ったら私だって汗だくだし、髪もかなり振り乱れてしまっているし、お互い様というか、うむ。あれだ。同じ穴のムジナなのだ。と最後は自分でも意味がわからなかったがとにかく神妙に答えたら、〈恭爺〉さんが本当に久しぶりに――微かにだけれど笑ってくれて、私は心底安心した。と同時に少しだけどきりとした。くそう、ワインレッドめ!
「それで、先程のことを?」
「先程のことって?」
「五つ目です」
「ええと……」
 そう言われても、言った張本人はもう覚えていなかった。だって全部で五つも言ったんだよ? 五つってかなり大量だよね甚大だよね莫大だよね膨大だよねそうだよね? と自らの記憶力の悪さを棚に上げて開き直る。
「『五つ目。お姫様が言っていましたよ? 〈恭爺〉さんは他人を慮ることが出来ない人だって。私のことを気遣えないから、『あの計画』から除外するって――』」
 〈恭爺〉さんは余程疲れているのか私の阿呆な様子を見ても嘲笑うことなく、ただそう復唱してみせた。うん、確かにそんなよーなことを言った気がする。なんとなく。
「違います」
「いっ」
 〈恭爺〉さんにほっぺたを抓られた。痛い! 油断した、最後の最後でこんな仕打ちって……私も悪かったけれどさっ。
「私はそんな理由で計画から外されたわけではありません」
「……え?」
 なに、それ。
「どういうことですか?」
 頬をさすりながら問うと、〈恭爺〉さんが渋った。もう、言いたくないとすぐこの表情をする。
「……役不足だと言われたんです」
「え」
 それって褒めてるじゃん。
「この計画についてはもう忘れて、今まで通り自らの任に集中して当たれと、そう命じられました」
 それを聞いて確信した。
 やっぱり、そうなんだ。私の憶測は正しかった。〈恭爺〉さんを例の計画から除外するという話について、麗燈さんが私に対して言った理由と〈恭爺〉さんに対して言った理由がまったく異なっている。私には「彼は君のことを気遣えないから」とさも私を慮るように、〈恭爺〉さん本人には「君では役不足だ」とこれまた彼を慮るように…………あ、ちょっとむかついてきた。
 よし麗燈さんは嘘つきで決定だとして、まだ疑問が残っているな。結局どうして麗燈さんは〈恭爺〉さんに守護軍の統括を任せているのだろう。まさか本当にただのサボリ症なのか?
「考え事ですか?」
 まさしくその通りなのだ〈恭爺〉さん、でも教えてあげない。
「人は見かけによらないんだなって、しみじみと思って」
「……どういう、意味ですか」
「あ、そのままの意味です」
 麗燈さんについて言ったんだけれど先程の自分の暴走について茶化されたのだと誤解したらしい〈恭爺〉さんは、「てめ喧嘩売ってんのか? ああん?」みたいな顔をした。いかん、誤解を解かねば第二次私室戦争が勃発する。
 そんなわけで本日は〈恭爺〉さんが結構喧嘩っ早いという新事実が発覚したのだった。うーん、有意義な一日だったな!
 ……いやいやいや、いや。
 当初の目的を忘れてはならんのだ。この受け取った霊力をなんとかして麗燈さんにお返ししたい。
 貴方について言ったんじゃないと誤解を解いてから、私は思い切ってお願いしてみることにした。
「〈恭爺〉さん」
「何ですか」
「本当は今日はお願いがあって来たんです。喧嘩を売りに来たんじゃなくて」
「私のお見舞いでもなくて?」
「あ、いえ、それも勿論あるんですけど……」
 ついでみたいに言ってしまったが機嫌を損ねていやしないだろうか、と心配して顔色を窺ってみたけれど、色濃い疲労が浮かんでいるだけだった。よし。
「鏡台でしたらすぐに手配させますよ」
「あ、それも違います」
「……他にまだあると? 我が儘な人ですね」
「うう」
 そうかもしれない……と本気で反省してしまった。ついでに元気も消失した。でも〈恭爺〉さん、女の子は基本的に我が儘なものだ! なんて復活の仕方も我ながらどうなのか。〈恭爺〉さんは大人の男の人なんだから女の子の我が儘をきちんと叶えてあげないとモテないぞ。たぶん。
「私、どうしても、お姫様にもう一度お会いしたくて」
 気を取り直してそう口にしたら、顔の沈着汚れの始末を終えて既に髪を整えにかかっていた彼の手がぴたっと止まる。何故かワインレッドの目が死んだ。
「昨日の今日で……まさか貴方あの方に惚れ」
「ちがーうっ!」
 誤解だ! もうっ、確かに私の言い方も悪かったかもしれないが、最後まで聞いて欲しい。
「そんなんじゃありません! お話したいことがあるんです」
「はあ……しかし」
「違いますよ!?」
「まだ何も言ってないでしょう……姫様は明後日の夕方までご予定が詰まっておいでです」
「えぇ! そんな、明後日って。じゃあ夜の間は。ほんの一時で良いから」
「まさか夜這」
「だから誤解ですって!」
 叫び過ぎて頭が痛くなってきた。くそう、もう髪の毛整えてやらんぞ! ……既に九割方は済んでいるけど。
 じゃなくて、お姫様。というか麗燈さん。何故なのだ、せめて一瞬だけでも会えないのか?
「お話だけでしたら私から伝えますが」
「え、でも……」
 〈恭爺〉さん、療養中なのに。
「まずは言ってごらんなさい」
 良いのかな。
「……〈魔羅〉ってここ最近増えてますよね」
「ええ」
「それで、お姫様って〈魔羅〉を撃退する上で重要な役割を担っているじゃないですか。霊符の強化しかり穢れの浄化しかり」
「貴方、嗅ぎ回りましたね?」
「な、何のことかしらぁ!?」
「声が裏返ってますよ。……はぁ。いいから続けて」
「〈恭爺〉さん怒ってません!?」
「ません」
「……あの、それでですね」
「はい」
「お姫様のお仕事も勿論、〈魔羅〉が増えるに従って嵩んできますよね」
「そうですね」
「なのにですよ!?」
「はい?」
「昨日、私はそのお姫様の大事な霊力を奪ってしまったわけです。これって良いんですか!?」
「寧ろ何の問題が?」
「やっぱり一大事ですよね! ……って、え、今なんて」
「問題ないと言いました」
「え? え? 本当に?」
 意外過ぎる〈恭爺〉さんの反応に私は目を白黒させた。なんで? だって〈魔羅〉、増えてるんでしょ。
 〈恭爺〉さんが呆れたように嘆息した。髪を整えた仕上げとばかりに私の頭を数回ぽんぽんと軽く叩きつつ。私の方も完了したぞ。仕返しに撫でてやるか?
「前に話したでしょう? 霊力は命に深く絡まっているものだと。一度に全て受け渡すことはできないと。そんなことをすれば姫様は病に臥せってしまわれる」
「でも」
 量は知らないけど受け取ってしまったのは事実だし、麗燈さんが体調を崩したりしたら大変じゃないか。
「そんなに不安なら」
「ぎゃ」
 突如〈恭爺〉さんに両手を引っ張られ、無防備だった私は彼の胸へと激突した。なんだなんだ??
「……ほら、大した量でもない」
 軽く頭を抱き込まれたと思ったら頭上でそんな声が落とされ、すぐに解放された。な、なんだ。霊力の量を計ったのか。……いや、他にやり方はあったはずだ! 仮にも男女。うん。
 杞憂だった、ということ?
「どうやら貴方の早とちりだったようですね」
「うう……そうみたいです。でも」
「でも?」
「お話したいことは他にもあって」
「そうですか」
「…………」
「白状なさい」
 くそっ、こちらはあまり〈恭爺〉さんには聞かれたくない話だったのに。
「結界を破壊する目的についてです」
「なんだ、そんなこと。一番初めに私からお話ししたではありませんか」
「でも、お姫様の口から直接聞きたくて」
「不安ですか?」
「……はい」
「あの話は姫様から私に直に伝えられたことなのですよ」
「そう、なんですか?」
「貴方が不安がることでもないでしょうに。この国の事情なのですから」
「そうですけど……」
 お姫様が、ううん、麗燈さんが、何を思ってその目的に向けて頑張るのか、その心が知りたかったんだけれどな。
 ああでも、これで当初の懸念は綺麗さっぱり解消されたわけだ。お姫様の霊力は殆ど減っていない、と。
 お話は次に会う時でもいいか。緊急のことではないし。
「そっかそっか……お姫様はご無事なんですね」
「ええ。無論です」
「良かった」
「ところで」
「はい?」
 〈恭爺〉さんが立ち上がったので私もつられて立ち上がったら、入り口付近まで怒涛の勢いで追いやられた。今度は何をする!
「光さん、貴方ね……私が療養中の身であるという事実を忘れてはいませんか」
「あ」
「一体いつまで居座るつもりなんです? 私は疲れました、もう十分でしょう? 十分暴れましたね?」
 それは〈恭爺〉さんが原因だし、主に暴れていたのも〈恭爺〉さんだし……いや、彼の言い分もご尤もだ。病人の部屋に長居なんて。
「用が済んだならお帰りなさい」
「はい。すみませんでした」
「ええ」
 と、戸を開ける前に。
「〈恭爺〉さん」
 私は〈恭爺〉さんの方に向き直り、彼の両手をぎゅっと握った。〈恭爺〉さんが怪訝そうな顔をする。うわ、嫌そー。
「ちゃんと、しっかり、休んでくださいね。お大事に!」
 そんなことは私に言われるまでもないかもしれないけれど。生意気な気もするし。
 ワインレッドの瞳に言い聞かせるつもりで強い口調でそう言うと――〈恭爺〉さんが瞠目して、それから小さく笑った。困ったように。
「わかっています。……やれやれ」
 迷惑そうだがまあいいか。
「あ、それと」
「まだ何かあるんですか」
 私はもう一度彼の方を振り返る。
「お片付け、手伝いますね」
 〈恭爺〉さんがちょっと眉根を寄せる。
「良いですか、似非とはいえ光さんは貴人なんです。そんな真似をさせるわけが」
「今さらですね!」
「…………」
 あ、黙った。なんだか勝った気がする!
「……もう貴方に会いたくない」
「そんなこと言わずに」
「早くお行きなさい」
「はいはい」
 何が何でもお片付けに参加しよう、と密かに心の中で誓いつつ、私は〈恭爺〉さんの部屋から追い出されるような形で回廊に出た。たいっっっへんお邪魔しました、という感じだ。ぐいぐい背中を押されて早く外に出ることに気を取られていたため、言い忘れてしまったけれど。
「ひ、光様?」
 一人でとことこと歩いていくと、少し離れた回廊の角で真澄さんが待っていた。私に気付くと驚愕の表情を浮かべる。……ああこの服か。汗や汚れはともかく、服はどうしようもなかったのだ。袴なんて端の方は逃げ回るうちに散乱した物体に引っ掛けたのか幾つにも裂けている状態だ。こうして改めて見るとすごい有様。樹海の中を何日も彷徨ってきたみたい。
「一体何が? 確かに、お気をつけ下さいとは申しましたが」
「んー、ということは音は外に漏れていなかったんですねえ」
「音?」
「この建物防音構造になってるんだなぁ……〈紅蓮〉の建築技術も侮れない」
「あの?」
「ねえ真澄さん」
「は、はい」
「喧嘩するほど仲が良いって言いません?」
「え、ええ。……え?」
「ですよねー」
 途中、渡り廊下があり、外の様子が見て取れた。
 目を瞠るような見事な夕焼け空が広がっている。橙色に優しく染まった庭園が幻想的で、私は笑みを深めた。



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