第一幕:08



 結局私は、詳細を話さなかった。
 話しても信じてもらえないというのが理由の一つだが、もう一つ、自分がこの〈紅蓮〉に召喚されたのは何故なのかという最も肝心な部分が不明であるという理由もあった。
「そろそろ休憩する? 平気?」
 菩提さんの言葉に、私は慌てて首を横に振った。
「大丈夫です」
 うーん。気まずいな。いや、私が悪いんだけれど。しかもそう思っているのは私だけみたいだし。
『さっきの続き』
 あの後私は、自分は気を失っているうちに何者かによって〈淡紅桜花〉へと連れて来られたってことだけを伝えた。それは間違いないと思う。どのような手段でとかどういった理由でとかはまだよく分からないから、素直に分からないってことを話すと、菩提さんは曖昧な笑顔で頷いてくれた。思うに彼、やはり信じていないのではなかろうか。悲しくなったけど、仕方ない。
 話にちょうどきりがついたところで憮然とした表情の瑠璃さんが現れ、出発した。そして今に至る。
 瑠璃さんは相変わらず数歩先を歩いている。軽やかな足取りから、まだ全然疲れていないってことが見て取れた。
 最初の休憩からもう随分時間が経っている。太陽は西に大きく傾いていて、辺りを橙の光に染めている。夕暮れだ。
 何時ぐらいなんだろう。
「……あ」
 そういえば。
 私は急いでスカートのポケットに手を突っ込み、中を漁った。
「どうしたの?」
 菩提さんが不思議そうに私の様子を見守る中、私は硬い感触を探り当てる。
 あった。
 腕時計!
 今の今まですっかり忘れていた。時間が気になったのは今が初めてではないのに。やっぱり色々なことが度重なり過ぎて、気が動転していたのだろう。
 私は日常に繋がるものを見つけたためか、とても安堵した。
 バンド部分が白い革のような素材で出来たシンプルなものだ。高校の入学祝いに祖父に買ってもらった。これで結構、値が張るんだよね。
「光、それは?」
「腕時計です」
 笑顔で菩提さんの質問に答えながら時間を確認する。五時三十七分。
 ちゃんと秒針も動いているし、それが正確な時間なのだろう。
「……あ、見ますか?」
 菩提さんがじーーーっと見ているのに気付いて、私は彼に腕時計を手渡してみた。見せてなんて言われてないけど。
 菩提さんはきょとんとした表情で受け取った腕時計を見つめていたけれど、やがて目を見開いた。
「動いてる……」
 秒針のことだろう。
「これは? 文字に見えなくもない」
 文字盤に書かれた数字のことを言っているのだろう。
 新鮮な反応に私は満足した。〈紅蓮〉に時計は無いのかな。
「これは、一日を二十四の時間に区切って表したものなんです。十二個書かれているものがあるでしょ?」
 私は菩提さんに近づいて腕時計を一緒に覗き込みながら説明した。これも訊かれてないけど。
「ああ、うん……」
 菩提さんが激しく瞬きながら文字盤を見つめていた。
「これが一、これが二……、で、最後は十二まで。その次はまた一に戻って、午後が始まります。午前と午後を合わせて、一日は二十四時間。短い針が時間を表わしていて、長い針はもっと細かい時を表します。『分』っていうんですけど」
「うん……」
「一時間は六十分。時計で見ると、十二から数えて一までが五分。十二から数えて二までが十分」
「うん……」
「動いているのが秒針です。『秒』は『分』よりさらに細かい単位で、六十秒が一分」
「うん……」
「秒の見方は分と同じです。十二から数えて一までが五秒」
「うん……」
 その時、菩提さんがちらりと助けを求めるような目で私を見た。しまった。
「……すみません。意味不明ですよね」
「いや、…………うん」
 否定しかけるところが何とも彼らしい。
「時計って無いんですか?」
「とけい? ……それってもしかして陽読み器のことかな」
「陽読み器?」
「うん。〈御殿〉と、それぞれの〈郷〉に一台ずつあるけれど」
 台、って表現からすると、かなり大規模なモノなんだろうか。その陽読み器とやら。
「僕は見たことないよ」
 菩提さんが困ったように笑った。じゃあ私の言ってること、益々意味不明で当然だ。
「瑠璃なら陽読み器の見方を知っていると思うけれどね。訊いてみようか?」
 何故そんな話になるのだ?
「いえ、結構ですっ。私にはこれがあるし!」
「とけい?」
「はい。凄く正確なんですから」
 私は自信満々に言った。実際、時計の技術の進歩って凄いと思う。私のは付加機能とか特にないけど、最近の腕時計って色々な機能がついているもんね。
 菩提さんがにこりと微笑み、私に腕時計を返してくれた。
 私は少し迷った後、それを腕に装着した。ポケットに入れてあった方が危ないかもしれないと思ったのだ。腕時計の存在をすっかり忘れて、何かの拍子に潰してしまいそうだった。それに、目につくところに愛着のあるモノがあるというのは安心する。精神安定剤のような役割もある。
 腕に巻きつける私を、菩提さんがまた不思議そうに見つめていた。


 薄暗くなってきた辺りで夕食を済ませ、再び歩き始めた。
 そうそう、一日の食事の回数だけれど。あの牢では二回だったが、普通は三回らしい。この辺は日本と変わらない。
 異世界っていってもこの〈紅蓮〉は特別、そんなに日本と変わらないんじゃないかなってこの時の私は思い始めていた。だって囲炉裏とか、三角おにぎりまであるのだ。そう思っても自然だと思う。
 実際は決定的に違うことがあるんだって思い知るのは、それから少し後の話。


「うーん、原始的……」
 その場にしゃがみ込んで灯りの準備をする瑠璃さんを見て、私は幾分失礼な感想を吐露した。
 灯り自体はカンテラと行燈を足して二で割った感じのものだ。で、火を起こす方法はというと、火打石を使用したものだった。
 瑠璃さんが一瞬作業する手を止めてぎろりと凄まじい目で私を睨み上げる。うん、今のは明らかに私が悪かったから異存はない。でもやっぱり怖過ぎる。瑠璃さんの睨みは大迫力なんだから! 自覚ってあるのかな。その睨みで鬼も裸足で逃げ出すと思う。
「灯りは一つしかないからな、これからは離れずに行くぞ」
 灯りを燈すことに成功した瑠璃さんが顔を上げずにそう言った。
 それって瑠璃さんの速いペースに合わせなくちゃいけないんだろうか、と私は一人不安になる。菩提さんの横顔を見つめてみるが、彼は何も言わない。異論は無いってことだろう。
 君に合わせるとかのたまったのは気休めだったのか?
 と、菩提さんと視線が絡む。何故だか彼は不安そうな顔をしている、ように見えた。既に夜の帳が下りてしまったのでよく見えない。気の所為かもしれない。
「……光」
「はい」
 素直に返事をすると、彼が視線を逸らした。
「僕よりも瑠璃の側にいた方がいいよ」
「…………」
 訳が分からない。私は赤裸様に顔を顰めた。
「どうしてですか」
 こんなこと勿論口には出さないけれど、私は瑠璃さんより菩提さんの方が良い。私が瑠璃さんを苦手だって菩提さんは知っているはずなのに、どうしてそんなことを言うのだろう? 困惑する。
「どうしてって、夜は危ないから」
 ……一体何度目になるやらもう分からないが、嫌な予感がする。
「危ないって?」
 顔を引き攣らせながら、菩提さんと、その場に立ちあがった瑠璃さんを交互に見つめた。
 瑠璃さんがその唇に意地悪な笑みを刻む。
「なんだ、小娘。お前、この森の住人ではなかったのか」
「……違います」
 冗談で言われたのはわかったが、つい硬い声になってしまう。
「光は森に入ったことがある?」
 菩提さんの質問に首を横に振った。山でのキャンプの経験はあるが、夜の森に入った経験はない。
「まずは野獣に襲われる危険があるな」
 瑠璃さんがさして重大なことでもなさそうに言いつつ、くるりと背を向けて歩き出した。遅れないようにその背を追う。意外にも瑠璃さんは前よりペースを落としてくれているみたいだったが、今の私にそのことに気付く余裕など殆ど残されてはいなかった。
「それって、熊とか?」
 恐る恐る尋ねると、彼は軽く頷いた。
「まぁそうだな。熊に、狼に、山犬。中でもこの辺りで厄介なのは〈白狼(はくろう)〉か」
 〈白狼〉って何。
「〈白狼〉は狡猾な獣だ。群れの数も多い。囲まれたら一巻の終わりだな」
 瑠璃さん、それってまさか私を脅かすために言っているんじゃ。
「〈白狼〉は通常の狼の三倍はある巨躯をしている。恐れられるのも当然というわけだ」
 ひいぃ、と私は口の中で悲鳴を零す。その〈白狼〉って生物、もの凄く脅威だよ!
 瑠璃さんは怯える私にさらなる追い打ちをかけてきた。
「あぁ、そういえば。〈白狼〉の群れに壊滅させられた町があったな」
 マジで!?
「〈玻露ノ町〉と言ったか。ちなみに我らが〈繚華ノ町〉の隣町に当たるわけだが……」
 もう止めて、お願いだから止めて!
「瑠璃」
 私が涙目で震え出した辺りで、菩提さんが厳しい声で瑠璃さんの暴言……ではないが、空恐ろしい発言を制止しにかかった。
「あまり光を怯えさせるな」
「事実を述べたまでだ」
「はぁ。だからそれが問題だと言うんだろう」
「どこが問題だ」
「自論を押し通そうとするな。君は配慮という言葉を知らないのか?」
「知らぬな」
「……瑠璃」
 菩提さんが一段低い声を出した。今のはちょっと、私も怖かったかも。
 でも瑠璃さんは全く動じず、どころか小馬鹿にしたような笑い声を上げる。何、この人。実は見た目通り悪の手先だったんじゃ、と私は一瞬本気で疑った。
「それより菩提、お前、小娘に霊符は渡したのか」
 瑠璃さんが笑みを絶やさぬまま、ちらりと私を見た。
 その小娘っていうの、いい加減やめてくれないかな。
 ……じゃなくて、霊符って何だっけ?
「菩提さん、霊符って?」
「ええっ? 知らないの?」
 私の質問に菩提さんが素っ頓狂な声で驚きを示し、
「とんだ世間知らずもいたものだな。貴人という話は真であったか」
 瑠璃さんが意味不明のことを言って、意地悪な笑い声を響かせた。
 だって知らないものは知らないんだから、仕方がないじゃないか。知らないのに知っていると嘘を吐いた方が問題だろう。
 むっとして見返すと、菩提さんが心底困ったような情けない表情を浮かべた。
「あぁ、どこから話したら良いんだろう。光は〈魔羅(マーラ)〉を知らないということだよね?」
 嫌な予感を通り越して寒気が。悪寒がっ。
 こくり、と怯えつつ頷くと、菩提さんが眩暈を覚えたかのような遠い目をする。
「そうか。そうなんだ。そうだったんだ」
 菩提さん、大丈夫か?
 心配して見つめていると、菩提さんが真剣な顔になって私をじっと見た。
「いいかい、光。〈魔羅〉というのは古来よりこの地に蔓延る化け物のことなんだ」
 思考が三秒間停止する。
「…………えええええ!?」
 恥も外聞もなく叫んだ。そうせずにはいられなかった。
 ここに来て衝撃の新事実が発覚した。化け物!
 やっぱりここは異世界だった。全然日本じゃなかった!
 私は壊れたように笑った。うん、思い切り引き攣った笑顔だ。
「嫌ですねもうっ、何の冗談ですか! 冗談でしょう!?」
「光……。可哀想に」
 例のごとく憐みの目で見られても、気にしてはいられない。それどころじゃない、それよりも今は是非、先ほどの言葉は嘘でしたって宣言して欲しい。
「この先遭遇する可能性とて十分にあるのだから、精々対策法を伝授してもらえ」
 瑠璃さんが他人事のようにつらっと言う。いや、実際他人事なのか?
「そんなことも知らずに育ったんだね。今度は違った意味で可哀想」
 可哀想可哀想言うな。
 涙目で睨むと、菩提さんが瞬き、微妙に視線を逸らした。
「……いや、その。さっきの続きだけれど」
「嘘」
「嘘じゃないよ。そもそも瑠璃が君の護衛に付けられたのには大いに〈魔羅〉が関係しているわけだし」
「ううううう」
「落ち着いて、光。誰だって〈魔羅〉は怖いよ。この僕もね」
「ううううう」
「……ええと、とりあえず霊符を渡しておこうかな」
 呻きだか唸り声だか判別のつかない声を上げる私に困った菩提さんは、ごそごそと懐を探って霊符とやらを取り出した。
 町の正門前で瑠璃さんが菩提さんに渡してたヤツだ。
「何ですか、これ」
 おずおずと受け取りながら尋ねる。
「〈魔羅〉対策その一」
 菩提さんが答えつつ、ちらっと視線を上げて私の表情を窺った。泣いてないぞ、別に。
「黒が呪縛符、白が守護符、赤が退魔符」
 見ると、手渡された紙の札みたいな霊符は三種類あるみたいだった。黒と白と赤。黒が……なんだって?
「黒の呪縛符。これは、一時的だけれど〈魔羅〉の動きを封じることが出来る。丸めて投げつけてやるといい。直接当たらなくても、近くに落ちれば勝手に反応して効果を発揮する」
 霊符には赤茶色の文様みたいな文字が書かれていた。漢字というよりは楔形文字に似ている。よく見ると、黒と白と赤、種類によって微妙に書かれていることが違うようだった。
「白の守護符。これは、〈魔羅〉から身を守ってくれるもの。持っているだけでいい」
 身を守る効果がある霊符。それはとても助かるが……、どういうことなのだろう。魔法がかかっているのか?
 私の疑問には気付かず、菩提さんが続けた。
「赤の退魔符。これは〈魔羅〉を滅する強大な力を秘めている。呪縛符と使い方は同じだけれど、気を付けて。近くにいると著しく霊力を吸い取られる危険があるからね」
 れ、霊力? 吸い取られる??
 愈々私は話について行けなくなった。菩提さんに私の時計の説明が理解出来なかったように、私は今の彼の説明が理解出来ない。
 ふと町を出発する際のある場面が脳裏を過る。菩提さんのお母さんとお別れする時のことだ。お母さんが「この頃は物騒だから」とかなんとか言っていた覚えがある。それって〈魔羅〉とやらのことを指して言っていたんじゃないのか。私はてっきり強盗とか暴力事件とかそっちの心配をしたのだけれど、違ったのだ。
 虚ろな目をする私の横で、菩提さんは何やら作業を始めていた。白い霊符を槍の柄に巻きつけ、細い紐で縛る。次に黒い霊符を槍の穂先へ。
「霊符も一通りあることだし、大丈夫だよ。瑠璃だってい……」
 言葉を途中で区切り、彼は私を見つめた。私、胡乱な表情をしていたのかもしれない。
「光は〈魔羅〉を知らないんだったね。説明が必要だよね?」
 そりゃ、聞きたくはないけれども。願望と必要が同じベクトルとして重なるとは限らないし。
「……必要です」
 とてもとても元気のない声が出たぞ。
 菩提さんは苦笑し、頷いた。
「〈魔羅〉は性質の悪い化け物なんだ。人を襲ったり、家畜を襲ったりする。どこが厄介かっていうと、生き物にとり憑くってところなんだ」
 うわあ、聞きたくなくなってきた。
 聞きたくはないが……、私は頭の中で〈魔羅〉って化け物をイメージしてみた。とり憑くってことは、妖怪よりは怨霊に近い感じ?
「これは有名な話だけれど、〈魔羅〉は生き血を浴びることで力を増していくんだ。詳しくは瑠璃に聞いた方がいいよ。何せその筋の専門家なんだから」
 瑠璃さんが専門家?
「瑠璃が紅蓮守護軍に属しているのは知っているね? 紅蓮守護軍っていうのは、〈魔羅〉から人々の生活を守るために存在する機関でもあるんだ。瑠璃はその第二師団の中で一つの連隊を率いている。第一師団は〈御殿〉、第二師団は〈淡紅桜花〉、第三師団は〈碧緑青葉〉……、というように、それぞれ守護する地が決まっているんだ」
 な、成る程。その「紅蓮守護軍」って、もしかして陰陽師の集まりみたいな感じだったりするのだろうか。
「守護軍の役目は何も〈魔羅〉退治ばかりではないよ。悪さをするのはいつも人外であるとは限らないしね」
 あれ、陰陽師の集まりではないのか? いや、うん、筋骨隆々な戦士系陰陽師集団とでも思っておこう。
「俺が素晴らしいのは分かったか」
 瑠璃さんが不意に、全然素晴らしくないことを言ってきた。
「〈魔羅〉を倒すのにはそれなりの才能が必要なのだ。一定以上の霊力を持つ者でなければ守護軍には入れぬ」
 瑠璃さんが説明を加えてくれた。じゃあ瑠璃さんって只者じゃないのか。
「僕も入りたかったな……」
 菩提さんが呑気に、というか、寧ろ羨望の籠った声でそんなことを零すものだから、私はぎょっとした。そんな空恐ろしい危険な仕事に就きたいだなんて、どうかしている!
「ああ。……残念だったな」
 瑠璃さんが珍しく優しい声を出して菩提さんを慰めた。なっ、何なのだ一体。訳もなく焦ってしまったではないか。
 というか、急に湿っぽい雰囲気になったぞ。まだまだ疑問が残っているのに、二人ともずうううんと沈み込んで黙ってしまうし。
「……あのぅ。霊力って?」
 私が怖々訊くと、この質問には瑠璃さんが答えた。
「それは知らずとも仕方があるまいな。霊力とは〈魔羅〉に対抗する唯一の力のことだ。〈魔羅〉の気配を察するのに必要であり、打ち倒すのに必要である」
 うーん、やっぱり魔力に近い感じなのかな。でも〈魔羅〉に対抗する力であるっていう辺り、魔法とはまた違う気がする。何もないところで炎を出したりとか水を出したりとか、怪我を一瞬で治したりとか、そういった力ではなさそうだ。
「それからな、どうも霊力は血統に関係しているらしい。昔から〈御殿〉に住む氏族には霊力の優れた者が多く存在する。あの辺りが栄えているのもそれが所以だろうな。〈四郷〉では中々霊力の強い者が産まれぬゆえ、わざわざ〈御殿〉から守護軍というものを派遣してそれぞれの地に充てているのだ」
 次から次へと話が移り、頭がこんがらがりそうだ。
 頭の痛い思いをしつつ菩提さんの様子を窺ってみると、やっぱり元気がない。そんなに守護軍に入れなかったことが悔やまれるのかな? それともその話に関連して、何か辛い出来事でもあったんだろうか。
「ひっ」
 心配で菩提さんのことをしばらく見つめていたら、後ろ向きで歩いていた瑠璃さんにデコピンされた。だから何だというのだ、この人は!
 納得がいかない、という目で見上げる私を軽くスルーして、瑠璃さんはくるりと前を向いた。
「さて、説明はもう十分だろう? これからは出来るだけ口を開かぬことだ」



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